生涯
1813 年、パリのユダヤ系音楽一家に生まれた。6 歳でパリ音楽院入学、11 歳で和声 1 等賞という史上稀な早熟ぶり。リスト、ショパンと並ぶパリの三大ピアニストと称された。
人生の中期から急に隠遁し、30 年以上にわたって表舞台から姿を消した。その間、独自に「12 の長調のエチュード」「12 の短調のエチュード」「全短調による交響曲(独奏ピアノのため)」など、ピアノ史上最も困難な作品群を残した。
1888 年、自宅で本棚の下敷きになって亡くなったという伝説がある。実際には別の死因らしいが、孤独な最期だった。20 世紀後半に再評価が進み、現代ピアニストの「最終課題」とされる。
人となり
アルカンの人となりを示す 4 つの側面。
一日のルーティン
隠遁時代のアルカンの一日は 厳格な宗教生活と作曲・翻訳の往復。修道院的な規則正しさで知られた。
音楽スタイル
アルカンのピアノ書法は 「人間の限界への挑戦」。リストの華やかさにベートーヴェンの構造感、メンデルスゾーンの清冽さを混ぜたような、独自で重厚な世界。
全 12 短調による組曲構成 は彼の発明。Op.39「12 の短調のエチュード」は 4 曲の「独奏ピアノのための交響曲」、3 曲の「同 協奏曲」を含む、ピアノ史上最大級の作品集。
ペダル付きピアノ(足鍵盤付き)も愛用し、その独奏曲も書いた。「フランスのバッハ」 と呼ばれることもある。対位法・フーガ書法の練達ぶりはリスト以上とも評される。
全作品リスト(主要)
エチュード
- Op.35 12 の長調のエチュード
- Op.39 12 の短調のエチュード(独奏交響曲・協奏曲を含む)
- Op.76 3 つの大練習曲(左手・右手・両手)
独奏曲
- Op.27 「鉄道」
- Op.33 グランド・ソナタ「四つの年齢」
- Op.61 ソナチネ
- Op.63 25 の前奏曲
室内楽
- Op.21 グランド・デュオ(チェロとピアノ)
- Op.30 ピアノ三重奏曲
代表作品(ピアノで弾ける)
ピアノ史への貢献
「ピアノは何処まで難しくできるか」の極北。リスト・ショパンが追求しなかった「技巧の壁」を一人で突破。20 世紀のソラブジ、フィニッシー、リーバーマンらの「演奏不可能の作品群」の祖。同時に 「独奏ピアノだけで交響曲・協奏曲全体を弾く」 という概念を発明し、独奏ピアノの可能性を哲学的に押し広げた。
聖地巡礼
アルカンはパリでひっそりと暮らしたため、明確な「聖地」は少ない。
逸話
アルカンの逸話は半分以上が伝説で、真偽の境目が曖昧。
影響関係
学習者にとって
アルカンは 「最終課題」 の作曲家。中級者には弾けるものは少なく、上級者向け。「鉄道」 は中上級者でも挑戦できる短い作品。Op.39 No.7「進行」 も比較的アプローチしやすい。全集を視野に入れるなら、まず 25 の前奏曲 Op.31 から。