生涯
1810年、ドイツ・ザクセン地方ツヴィッカウで、書店主・出版業者の息子として生まれた。文学に深く親しむ環境で育ち、ピアニストと作家のどちらを職業にするか長く迷った。
ライプツィヒでヴィーク(後の妻クララの父)にピアノを学ぶが、機械的な指の訓練装置で右手を故障させ、ピアニストの道を断念。作曲と音楽評論に専念した。1834年、自ら「新音楽時報」を創刊し、優れた音楽批評家としても活躍した。
師ヴィークの娘 クララ との恋愛は父親の猛反対に遭い、裁判を経て1840年に結婚。クララは当代屈指のピアニストで、二人は音楽史上もっとも有名な音楽家夫婦となった。
晩年は精神疾患に苦しみ、1854年にライン川に投身自殺を図る。救助されたが、自ら精神病院への入院を希望し、2年後の1856年、46歳でそこで息を引き取った。クララはその後40年生きて、シューマンの遺産を世に伝えた。
人となり
シューマンは 「文学者であり音楽家である」 という二重性を生涯抱えた。自分の中に「フロレスタン(情熱的)」と「オイゼビウス(瞑想的)」という二人の人格を見ていた。後年は精神疾患に苦しみ、内なる声に悩まされた。
一日のルーティン
シューマンは 季節と気分で大きく変動する 生活パターンを持っていた。創作のピーク期(1840年「歌の年」など)は集中して書くが、抑うつ期は何ヶ月も全く書けないこともあった。
音楽スタイル
ショパンと同じ年生まれだが、対照的な作曲家。ショパンが「ピアニストとしての作曲家」なら、シューマンは 「作家としての作曲家」 である。文学・哲学・音楽評論の世界を歩み、自身の音楽にも詩的な物語性を込めた。
「クライスレリアーナ」「謝肉祭」「子供の情景」「幻想小曲集」など、組曲形式の名品が多い。短い曲を組み合わせて、全体で大きな心象風景を描く。和声は革新的で、しばしば曖昧な響きを使い、後のドビュッシーへとつながる。
全作品リスト(主要)
ピアノ独奏(重要作)
- Op.9謝肉祭(21曲、A-S-C-H暗号)
- Op.12幻想小曲集(8曲、「飛翔」を含む)
- Op.13交響的練習曲(主題と12変奏)
- Op.15子供の情景(13曲、「トロイメライ」を含む)
- Op.16クライスレリアーナ(8曲)
- Op.17幻想曲 ハ長調(クララへ)
- Op.21ノヴェレッテン(8曲)
- Op.22ピアノソナタ第2番
- Op.26ウィーンの謝肉祭の道化
- Op.68ユーゲントアルバム(43曲、子供向け)
- Op.82森の情景
ピアノ協奏曲・室内楽
- Op.54ピアノ協奏曲 イ短調
- Op.44ピアノ五重奏曲
- Op.47ピアノ四重奏曲
- Op.63ピアノ三重奏曲第1番
歌曲(「歌の年」1840年)
- Op.24リーダークライス(ハイネ詩)
- Op.25ミルテの花(クララへの結婚記念)
- Op.39リーダークライス(アイヒェンドルフ詩)
- Op.42女の愛と生涯
- Op.48詩人の恋(ハイネ詩、最高傑作)
交響曲(全4曲)
- Op.38交響曲第1番「春」
- Op.61交響曲第2番
- Op.97交響曲第3番「ライン」
- Op.120交響曲第4番
声楽・宗教音楽
- Op.50楽園とペリ(オラトリオ)
- Op.110ピアノ三重奏曲第3番
- Op.115マンフレッド序曲
代表作品(ピアノ)
ピアノ史への貢献
シューマンの最大の貢献は、ピアノ音楽に 「文学性」と「内面の物語」 を持ち込んだことだ。それまでの音楽が形式や情感の表現だったのに対し、シューマンは 音楽そのものを「詩」として書いた。
音楽評論家としての功績も大きい。彼の雑誌「新音楽時報」は、当時無名だったショパン、ベルリオーズ、ブラームスを世に紹介した。「諸君、脱帽せよ。天才だ」とショパンを評した一文は有名。
聖地巡礼
シューマンゆかりの地は、生地ツヴィッカウ・活動地ライプツィヒ・最晩年デュッセルドルフ・墓地ボンの4都市。すべてドイツにあり、列車で巡れる。クララと共に過ごした家屋が複数残っている。
逸話
20歳のクララと結婚するまで、彼女の父ヴィークから猛烈な反対を受けた。クララの父は「シューマンとの結婚は許さない」とし、シューマンとクララは何年もの裁判を経て、ようやく結婚を許可された。
シューマンの「謝肉祭」には、4つの音 A-S-C-H(彼が交際していたエルネスティーネの故郷)と S-C-H-A(自分の名前)を音名暗号として使った。和声の中にこっそり名前を埋め込む、文学者らしい遊びだった。
晩年、ブラームス(当時20歳)が訪ねてきた時、シューマンは「彼こそ天才だ」と直感し、最後の評論記事「新しい道」でブラームスを世に紹介した。これがブラームスの音楽家としてのスタートを切った。
影響関係
影響を受けた
- J.S.バッハ(対位法)
- ベートーヴェン(ソナタ形式)
- シューベルト(歌曲性)
- ジャン・パウル(小説家)
影響を与えた
- クララ・シューマン
- ブラームス(直接の発掘)
- ドビュッシー(和声の曖昧さ)
- 後のロマン派全体
学習者にとって
「子供の情景」のトロイメライは初級〜中級でも取り組める名曲。「ユーゲントアルバム」の小品も、子供のレッスンによく使われる。中級以降は「幻想小曲集」「謝肉祭」、上級は「交響的練習曲」「クライスレリアーナ」「幻想曲」へと進む。
シューマンは 「内面に語りかけるピアノ」 を学ぶための重要な作曲家。技巧の見せ場よりも、心の機微を音にすることが求められる。多くの組曲は「全体で一つの物語」のように書かれており、複数の小品を通して読み解く必要がある。