Composers

作曲家

Composer Profile

フランツ・リスト(1858年、フランツ・ハンフシュテングル撮影)
1811 – 1886 ハンガリー ロマン派

フランツ・リスト

ロックスターの原型 — 19世紀の超絶技巧スター。

生涯

1811年、ハンガリー(当時のオーストリア帝国領)のライディングで生まれた。9歳でデビューし、12歳でウィーンに移住。チェルニー(後の練習曲の作曲家)にピアノを学び、サリエリに作曲を学んだ。ベートーヴェンに「祝福のキス」を額に受けたという伝説も残る。

20代でパリに移り、ショパン、ベルリオーズ、ワーグナー(後の娘婿)と交流。30代にはヨーロッパ各地で 「リストマニア」 と呼ばれる熱狂を巻き起こした。女性が失神し、汗を吸ったハンカチが奪い合いになる、現代のロックスター現象の先駆けである。

40代以降は演奏活動から退き、ヴァイマルで指揮者・教育者として活動。65歳でローマ・カトリックの下級僧職位を受け、「リスト師父」と呼ばれた。1886年、75歳でドイツ・バイロイト(娘婿ワーグナーの本拠地)で世を去った。生涯独身(結婚はせず)だが、複数の女性との間に3人の子供をもうけた。

人となり

リストは 派手・華麗・カリスマ的 で、しかし 慈善家・教育者 としての顔も持っていた。一見矛盾するが、彼の人生はこの両面性で成り立っていた。「演奏家リスト」と「宗教家リスト」の間を生涯往復した人物。

気質
華麗・カリスマ
登場するだけで聴衆を魅了するスター気質。長髪を振り乱して演奏した。今のロックスターの原型。
恋愛
複数の貴族女性との恋
ダグー伯爵夫人、ヴィトゲンシュタイン公爵夫人など、貴族との浮名が絶えなかった。生涯独身。
慈善
無償レッスン
晩年、世界中から才能ある若者を集めて無償でレッスンした。ピアノ教育の系譜の祖。
宗教
敬虔なカトリック
65歳でローマで下級僧職位を受け、僧服を着るようになった。「リスト師父(Abbé Liszt)」と呼ばれた。
国際性
3カ国語を駆使
ハンガリー語・ドイツ語・フランス語・イタリア語に堪能。本人は「私は半分ロマ族」と語った。
大食漢
ハンガリー料理を好み、ワインも愛した。晩年は太り気味で、自虐的に語った。
私の家は、私のピアノだ。 リスト

一日のルーティン

ヴァイマル時代(1848-1861)、リストは 無償レッスン・作曲・指揮の3つを並行 させる充実した日々を送った。世界中から弟子が集まり、彼の家は毎日サロンと化した。

7:00 起床。早朝に祈祷の習慣(晩年)。
8:00–11:00 作曲、自己研鑽の練習。最も集中できる時間として早朝を確保。
11:00–14:00 弟子たちのマスタークラス。世界中から集まった若手に無償でレッスン。一度に10人以上を聴いた日もある。
14:00–15:00 昼食。弟子や訪問客と共に。
15:00–18:00 指揮の準備、楽譜編集、訪問者の応対。書簡業(数千通残る)もこの時間。
18:00–22:00 夕食、家でのコンサート。リストの家のサロンは19世紀ヨーロッパ音楽界の中心地だった。
22:00–24:00 読書、祈祷、就寝。

音楽スタイル

リストの音楽の核心は 「ピアノでオーケストラを再現する」 という発想である。10本の指で出せる音の最大値を追求し、跳躍・オクターブ・速いパッセージ・強烈な和音を駆使する。彼以前のピアノ音楽の限界を、文字通り突き破った。

後年は宗教音楽に傾倒し、瞑想的な作品も残している。「巡礼の年」第3年や晩年のピアノ小品は、若い頃の華麗さとは対照的な、神秘的で前衛的な作風で、20世紀現代音楽の予兆ともされる。

全作品リスト(主要)

ピアノ独奏(重要作)

  • S.244ハンガリー狂詩曲集(全19曲)
  • S.139超絶技巧練習曲(全12曲)
  • S.140パガニーニ大練習曲(ラ・カンパネラ含む)
  • S.1413つの演奏会用練習曲
  • S.160-163巡礼の年(第1年「スイス」、第2年「イタリア」、第3年)
  • S.541愛の夢(3つの夜想曲)
  • S.1713つのコンソレーション(慰め)
  • S.178ピアノソナタ ロ短調(最高傑作)
  • S.514-5163つのメフィスト・ワルツ

ピアノ協奏曲・管弦楽

  • S.124ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調
  • S.125ピアノ協奏曲第2番 イ長調
  • S.126死の舞踏(ピアノと管弦楽)
  • S.95-107交響詩集(13曲)
  • S.108-109ファウスト交響曲・ダンテ交響曲

編曲(リストの大きな貢献)

  • 多数シューベルト歌曲のピアノ編曲
  • 多数ベルリオーズ「幻想交響曲」ピアノ版
  • 多数ベートーヴェン交響曲全9曲のピアノ独奏版
  • 多数ヴェルディ・ワーグナー歌劇の幻想曲

宗教音楽

  • S.2オラトリオ「キリスト」
  • S.3オラトリオ「聖エリザベートの伝説」
  • S.9ハンガリー戴冠ミサ
  • 後期晩年のピアノ宗教曲(無調的・前衛的)

代表作品(ピアノ)

ピアノ史への貢献

リストは 近代ピアノ演奏様式の創始者 である。「腕の重みを使う奏法」「跳躍」「オクターブの連続」「両手の交差」など、現代ピアニストが当然と思っている技法の多くは、リストが開発・体系化した。

彼は 「リサイタル」 という形式を発明した張本人でもある。それまでのコンサートは複数の演奏家・歌手・楽器が登場するのが普通だったが、リストは「ピアノ独奏だけで2時間のコンサート」を成立させた。今のピアノリサイタルは彼の発明である。

晩年は無償でレッスンを続け、世界中から弟子が集まった。彼の系譜は今もピアニストの「先生の先生の先生」として連綿と続いている。

聖地巡礼

リストゆかりの地は、生地ハンガリー・活動地ヴァイマル・最期のバイロイトの3カ国にまたがる。「ヨーロッパを音で繋ぐ存在」だったリストの足跡を辿る旅は、4カ国(ハンガリー・オーストリア・ドイツ・イタリア)にも及ぶ。

生家
リスト生家(Liszt Ferenc Zentrum Raiding)
Lisztstraße 46, 7321 Raiding, Austria
1811年にリストが生まれた家。現在はオーストリア領(当時はハンガリー領)。生家博物館と隣接する近代的なコンサートホール「Lisztzentrum」がある。毎年「リスト音楽祭」開催。
ウィーンから列車・バスで約2時間。
活動拠点
リストハウス・ヴァイマル
Marienstraße 17, 99423 Weimar, Germany
1848-1861年、リストが宮廷楽長として住んだ家。多くの傑作がここで生まれ、世界中から弟子が訪れた。生活空間と楽器が当時のまま保存されている。
ヴァイマル中央駅から徒歩15分。火〜日曜開館。
記念博物館
リスト記念博物館(ブダペスト)
Vörösmarty utca 35, 1064 Budapest, Hungary
リストが晩年(1881年以降)住んだ家。リスト音楽院(現リスト大学)の創立者でもある。彼が使ったピアノ・自筆譜・遺品を展示。
地下鉄M1線「Vörösmarty utca駅」から徒歩2分。
墓地
バイロイト市営墓地
Erlanger Straße 53, 95444 Bayreuth, Germany
1886年、娘婿ワーグナーの音楽祭を訪れた際に死去。バイロイトに葬られた。墓は素朴で、リスト本人が望んだ「シンプルな墓」となっている。
バイロイト中央駅から徒歩15分。
音楽院
フランツ・リスト音楽院(ブダペスト)
Liszt Ferenc tér 8, 1061 Budapest
リスト自身が1875年に創立し初代総長を務めた音楽院。現在もハンガリー最高峰の音楽教育機関。建物は美しいアール・ヌーヴォー様式。
地下鉄M1線「Oktogon駅」から徒歩3分。
音楽祭
バイロイト音楽祭
毎年7-8月、バイロイト
娘婿ワーグナーが創設した世界最高峰の音楽祭。リストとワーグナー両方の聖地。チケットは数年待ち。
公式サイトから抽選で予約。
リスト4カ国コース:1日目ウィーンから列車でライディング(生家)→ 2日目ブダペスト(記念博物館・音楽院)→ 3日目ドイツに移動 → 4日目ヴァイマル(リストハウス・ゲーテとシラーの街)→ 5日目バイロイト(墓・音楽祭)。中欧周遊のハイライト。

逸話

「リストマニア」現象では、彼の演奏会で女性が失神することは日常茶飯事だった。記念品として彼の手袋・ハンカチ・タバコの吸殻まで奪い合われた。ハインリヒ・ハイネ(詩人)はこの現象を「Lisztomania」と命名し、現代の「Beatlemania」の語源になっている。

夫婦関係は複雑で、結婚はしなかったが2人の女性との間に子供をもうけた。次女コジマはピアニスト・指揮者ハンス・フォン・ビューローと結婚、後にワーグナーと駆け落ちして再婚した。

後年、ローマ教皇ピウス9世から下級僧職位を授けられ、僧服を着るようになる。「リスト師父(Abbé Liszt)」という新しい呼び名で呼ばれた。世俗を離れたわけではなく、演奏・教育活動は続けていた。

パリの大火事の際、リストは演奏会の出演料 10,000フラン 全額を寄付した。慈善家としての顔は生涯通底していた。

影響関係

影響を受けた

  • パガニーニ(ヴァイオリンの超絶技巧)
  • チェルニー(直接の師)
  • ベートーヴェン(後期作品)
  • ベルリオーズ(管弦楽思考)

影響を与えた

  • ワーグナー(娘婿)
  • ラフマニノフ
  • スクリャービン
  • バルトーク
  • 20世紀のすべてのピアニスト

学習者にとって

リストは 「ピアニストの夢の最終目的地」 である。「ラ・カンパネラ」「メフィスト・ワルツ」「超絶技巧練習曲」を弾けるようになることは、多くのピアニストの目標になる。

初〜中級でも「愛の夢 第3番」「コンソレーション第3番」「慰め」などの作品が取り組める。ただし華やかな技巧曲は 純粋に身体能力 を要求するため、本格的なリストは上級〜プロ向けである。

晩年の作品(「不吉な星」「無調のバガテル」など)は20世紀的な前衛性を持ち、研究者の関心も高い。