Composers

作曲家

Composer Profile

ハノン
1819 – 1900 フランス ロマン派

ハノン

ピアノ技巧の基礎を築いた「ハノン」の作者。

生涯

フランスの音楽教師シャルル=ルイ・アノンは、1873年に「ヴィルトゥオーゾ・ピアニスト(60の練習曲)」を出版した。指の独立・均等・敏捷・柔軟を機械的に鍛えるこの教則本は、世界中のピアノ学習者の「毎日の準備運動」として今も使われ続けている。

音楽的な魅力よりも徹底した反復訓練に振り切った内容ゆえ、「退屈だ」「音楽性を損なう」という批判も根強い。それでも一世紀半にわたり弾き継がれてきた事実が、その実用性を物語る。ハノンの名は、いまや「基礎練習」そのものの代名詞である。

人となり

ハノンの人となりを示す 4 つの側面。

教則
60の練習曲
「ヴィルトゥオーゾ・ピアニスト」は3部構成。指づくりの体系的メソッドとして定着。
目的
指の独立と均等
5本の指を等しく、速く、正確に動かすための反復訓練に特化。
賛否
退屈という批判も
機械的すぎるとの声もあるが、実用性で世界標準になった。
影響
世界標準の準備運動
ツェルニーと並び、世界中の教室で毎日弾かれている。

音楽スタイル

ハノンの『ヴィルトゥオーゾ・ピアニスト』は、音楽的な魅力を意図的に切り捨てたところに特徴がある。第1番から第20番までは、16分音符8個の音型をハ長調のまま1音ずつ上げて2オクターヴ上行し、そのまま下行して戻る。旋律も和声も転調もない。覚える負担をゼロにして、指の動きだけに注意を向けさせるための設計である。

第21番から第43番では音階と分散和音が加わり、第44番から第60番では同音連打、重音、3度とオクターヴの音階、トレモロといった最高難度の技術を扱う。原題は「敏捷性・独立・力・完全な均等、そして手首の柔軟性を獲得するために計算された60の練習曲」という長いもので、目的がそのまま題名になっている。

代表作品(無料楽譜へ)

ピアノ史への貢献

1873年にブローニュ=シュル=メールで出版されたこの60曲は、やがて国境を越えて広まり、とりわけロシア・ピアノ楽派の技術的水準を支える基礎教材となった。帝政ロシアの音楽院では必修とされ、学生は全曲を暗譜し、高速で、すべての長調・短調に移調して弾けることを求められた。

ラフマニノフとヨゼフ・レヴィンは、当時のロシア人ピアニストの技術水準の高さを、この練習の徹底に帰している。一冊の教則本が国民的な演奏様式を形づくった稀な例である。

逸話

ラフマニノフは、帝政ロシアの音楽院では最初の5年間、技術指導のほとんどをハノンから受けたと証言している。5年目の終わりに試験があり、通らなければ先へ進めない。学生は全曲を番号で記憶しているため、試験官は「17番を弾け」「28番」「32番」と番号だけで指定した、という。

学習者にとって

最初に得られるのは、指を独立して動かす感覚と、4指・5指の弱さの自覚である。第1番を弾けばすぐ分かるが、つまずくのは音符ではなく薬指と小指が単独で動かないという一点にほぼ集約される。親指のくぐらせも早い段階で課題になる。

ただし批判も根強い。ドロシー・タウブマンは技術練習そのものが益より害をもたらすと主張し、アビー・ホワイトサイドは指の独立という発想を否定して腕の使用を説いた。ハオ・ホァンは、指の型を無心でなぞる時間ほど鈍らせるものはないと警告している。速度と反復回数を競うと故障につながるため、目的を絞って短時間使うのが現実的である。

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出典・参考

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