Composers

作曲家

Composer Profile

フランツ・シューベルト(リーダー作)
1797 – 1828 オーストリア 古典派〜ロマン派

フランツ・ペーター・シューベルト

歌曲の王 — 短い31年で1000曲を残した、もうひとりのウィーン人。

生涯

ウィーンで生まれ、ウィーンで生き、31年という短い生涯を駆け抜けた。出来事を時系列で追うと、その密度が見えてくる。

  1. 1797誕生

    ウィーン郊外で生まれる

    学校教師の家の子として誕生。父からヴァイオリン、兄からピアノを習い、すぐに師を追い越した。

  2. 180811歳

    寄宿学校コンヴィクトへ

    宮廷礼拝堂の少年合唱団員に。楽長サリエリに師事し、オーケストラで弾きながら作曲を始める。

  3. 181518歳

    歌曲が噴き出した年

    この1年だけで歌曲 約150曲。ゲーテの詩による「魔王」もこの年に。やがて教職を捨て、定職に就かず友人たちの支えで生きる道を選ぶ。

  4. 1820

    シューベルティアーデ

    ショーバー・フォーグルら親しい仲間が彼の歌を歌い、住む場所と食事を分け合った。その私的な音楽の夕べが、のちにこう呼ばれる。

  5. 182225歳

    病、そして「未完成」

    健康を損なう(梅毒とされる)。陰りが作品に差す一方、交響曲第8番「未完成」、翌年に歌曲集「美しき水車小屋の娘」。

  6. 182730歳

    「冬の旅」とベートーヴェンの葬列

    敬愛する巨匠の葬列で松明持ちを務めた。同年、最高傑作の歌曲集「冬の旅」。

  7. 182831歳

    晩年の奇跡、そして死

    交響曲第9番「グレート」、最後の3つのピアノソナタ(D.958–960)。3月に生前唯一の自作演奏会。11月、わずか31歳で世を去り、遺言どおりベートーヴェンの近くに葬られた。

  8. 1839没後

    再発見される

    弟フェルディナントが守った草稿から、シューマンが交響曲第9番を発見、メンデルスゾーンが初演。1000曲超(うち歌曲約600曲)を残した彼は、死してのち「歌曲の王」と認められた。

音楽スタイル

シューベルトの音楽を、3つの「らしさ」で。

01

歌を、芸術の中心に

ピアノに情景そのもの——糸車・小川・馬の疾走——を描かせ、声とピアノを対等の語り手に。「魔王」では父・子・魔王・語り手の4役をひとりの歌手で描き分ける。シューマン、ブラームス、ヴォルフへ受け継がれた発明。

02

転調の魔法、長短の翳り

遠い調へ滑り込む転調の名人。とくに同じ旋律が長調と短調を揺れ動く瞬間が、明暗・現実と夢のあいだを漂う独特の色を生む。喜びの中にふと差す翳り——それがシューベルトらしさ。

03

天国的な長さ

急いで展開せず、美しい旋律をくり返し、たっぷり歌わせる。だから譜面どおりでは間延びして聴こえる——長いフレーズを一息で繋いで初めて呼吸を始める。即興曲のような小品を独立した芸術へ高めたのも彼。

代表作品

逸話とエピソード

眠るときもメガネを外さなかった

強い近視だったシューベルトは、目覚めた瞬間に楽想を書き留められるよう、メガネをかけたまま眠ったと伝えられる。多作の秘密は、特別な机ではなく「いつでも書ける態勢」にあった。

「魔王」は一気に書かれた

友人の回想によれば、ゲーテの詩「魔王」に強く心を動かされ、その場で猛烈な勢いでペンを走らせ短時間で完成させたという。18歳の青年が、たった一晩でドイツ歌曲の歴史を変えた。

生前、公開演奏会は一度きり

自作だけのコンサートを開けたのは死の半年前、1828年3月のたった一度だけ。パガニーニ来演の熱狂の陰でほとんど注目されなかったが、その収入で念願のピアノを手に入れたとされる。

最後まで、ベートーヴェン

1827年、巨匠の葬列で松明を掲げた彼は翌年に世を去る。臨終の床でベートーヴェンの弦楽四重奏曲(作品131)を聴きたいと望んだとも伝えられ、遺言どおり彼の近くに葬られた。

聖地巡礼

生家
シューベルトの生家
Nußdorfer Straße 54, 1090 Wien
1797年に生まれた家。地下鉄U6線フリーデンスブリュッケ駅から徒歩5分。
ウィーン中央墓地 音楽家エリア
Simmeringer Hauptstr. 234, Wien
ベートーヴェンの隣に葬られた。本人の遺言通り。
音楽祭
シューベルティアーデ
オーストリア各地・毎年
親しい友人たちが彼の作品を演奏した私的な集まりが、現代の音楽祭として復活。

姿と場所

影響関係

学習者にとって

シューベルトは「音は易しいのに、音楽は難しい」作曲家の代表格。技巧的にはショパンやリストより取り組みやすい曲も多いが、歌心と和声の機微がそのまま音に出てしまう。ごまかしが効かない、本当の意味で“歌わせる力”が問われる。

入門〜中級
「楽興の時」第3番 D.780-3、即興曲 D.935-2。短く親しみやすいが、左手の伴奏を出しすぎず旋律を“声”として届ける練習に最適。
中級
即興曲 D.899-3(変ト長調)。長いカンタービレを一息で繋ぐ感覚と、内声の和声変化を聴き取る耳を育てる、シューベルト入門の名曲。
中上級
即興曲 D.899-4、D.935-3(変奏曲)。粒のそろった分散和音と、テーマが長短調を行き来する“色の変化”の表現が課題。
上級
さすらい人幻想曲 D.760、ピアノソナタ第21番 D.960。技巧だけでなく、大伽藍のような長大な構成を“間延びさせずに歌い切る”構築力が要る。
共通する鍵は「テンポを急がないこと」と「弱音の豊かさ」。シューベルトの pp は“小さい音”ではなく“遠くから聞こえる歌”。フレーズの終わりを丁寧に置き、長調がふと短調に翳る瞬間に気づかせられたら、この音楽は生き始める。まずは歌曲(「冬の旅」など)を一度聴くと、ピアノ作品の“歌い方”が驚くほど掴みやすくなる。